退職したら資格取得費用を返還する必要はある?会社負担の研修費・受験料を解説

会社員として働いていると、会社が資格取得を支援してくれることがあります。

受験料だけでなく、専門学校の授業料や通信教育費、研修費などを会社が負担してくれるケースもあるでしょう。

ところが、資格を取得した後に転職や退職を考えたとき、

「会社が払った資格取得費用を返してください」

と言われたらどうでしょうか。

「会社がお金を出してくれたのだから返すのは当然」と思うかもしれません。

しかし、必ず返還しなければならないとは限りません。

資格取得費用の返還については、資格取得の目的、業務との関連性、本人が自由意思で受講したのか、会社との契約内容などによって結論が変わる可能性があります。

今回は、会社負担で取得した資格の費用を退職時に返還する必要があるのかについて、労働法の基本と家計・キャリア形成というFPの視点から考えてみます。

目次

会社の「資格取得支援制度」とは?

会社によっては、従業員の能力向上を目的として資格取得支援制度を設けています。

たとえば、宅建、FP、簿記、IT関連資格、語学資格などについて、受験料や講座受講料、教材費などを会社が負担するケースがあります。

企業にとっても、従業員の専門能力が向上すれば業務の質を高められるため、資格取得支援にはメリットがあります。

一方で会社側には、

「30万円かけて資格を取ってもらったのに、その直後に退職されてしまった」

という問題もあります。

そこで、

「資格取得後○年以内に退職した場合は、会社が負担した費用を返還する」

といった規定を設けている企業があります。

では、このようなルールを設ければ、必ず従業員に返還させられるのでしょうか。

「3年以内に辞めたら30万円返せ」は常に有効とは限らない

重要になるのが労働基準法16条です。

同条では、使用者が労働契約の不履行について「違約金」を定めたり、あらかじめ損害賠償額を予定したりする契約を禁止しています。厚生労働省も「途中でやめたら、違約金を払え」というような取り決めを典型例として挙げています。(厚生労働省)

たとえば、

入社から3年以内に退職した場合は、一律50万円を会社へ支払う

というように、退職そのものにペナルティーを設けることには問題があります。実際、労働局も「3年以内に退職した場合は会社に50万円を支払う」といった契約について、労働基準法16条との関係を説明しています。(労働局所在地一覧)

ただし、ここで注意したいのは、

「退職時の資格取得費用の返還請求は、すべて違法」

という意味ではないことです。

資格取得費用を返さなければならないケースもある

資格取得費用の返還が認められるかどうかは、実態によって判断されます。

厚生労働省の中央労働委員会が公表している事例解説では、資格・研修費用について、主に①労働契約とは区別された金銭消費貸借契約があるか、②研修への参加が任意・自発的だったか、③業務との関連性、④返還免除基準の合理性、⑤返済額・方法の合理性などを総合的に考慮すると整理されています。(厚生労働省)

つまり、

「会社が払ったかどうか」だけで決まる問題ではありません。

ここが非常に重要です。

会社業務として取得させた資格の場合

会社が業務上必要だから取得を命じ、従業員にほとんど選択の余地がなかったケースを考えてみましょう。

たとえば会社が、

「この仕事を担当するために資格を取ってください」

と命じ、取得費用を負担していたような場合です。

このようなケースでは、資格取得費用は会社が事業を行うために必要な経費という性格が強くなります。

そのため、退職したからといって当然に全額を従業員へ負担させられるとは限りません。

本人が希望して取得した資格の場合

一方、

「希望者だけが参加できる」

「業務に必須ではない」

「転職しても本人が利用できる一般的な資格」

といったケースでは事情が変わります。

会社がいったん費用を貸し付け、

「一定期間勤務した場合には返還を免除する」

という独立した貸付契約になっている場合などには、返還が認められる可能性があります。

裁判例でも、研修が業務そのものではなく、個別に金銭消費貸借契約を締結し、一定期間勤務すれば返還を免除する仕組みなどについて検討されたケースがあります。(最高裁判所)

したがって、

会社負担=必ず返さなくていい

でも、

規程に書いてある=必ず返さなければならない

でもないのです。

「5年間辞めたら返還」はどう考える?

添付資料で興味深いのが、返還免除までの期間について法律上「○年以内なら有効」という明確なルールがあるわけではないという点です。

ここも「3年ならOK、5年ならNG」と単純に線引きできません。

返還額、研修期間、資格の性質、業務との関係、本人の意思、勤務期間などを踏まえて判断されることになります。

そのため、

「資格取得後5年間勤務しなければ全額返還」

という規定があったとしても、5年という数字だけで有効・無効を判断するのは難しいでしょう。

FPとして注目したい「資格取得=隠れた退職コスト」

ここからがFPとして特に伝えたいポイントです。

会社の資格取得支援を見ると、

「会社がお金を出して資格を取らせてくれる。お得な制度だ」

と考えがちです。

しかし、返還条件が設定されている場合、実質的には将来の退職時に発生する可能性のある債務として考えておく必要があります。

たとえば会社から50万円の資格取得支援を受け、

「取得後3年以内に自己都合退職した場合は全額返還」

という条件だったとしましょう。

2年後に転職することになれば、退職・転職に伴う引っ越し費用や一時的な収入減少などに加えて、50万円の返還問題まで発生する可能性があります。

これは家計にとって決して小さな金額ではありません。

資格取得支援制度を利用する前に「取得費用」だけでなく「退職した場合」を確認することが大切なのです。

資格取得支援を利用する前に確認したい5つのポイント

会社の制度を利用する場合には、最低でも次の点を確認しておきたいところです。

  1. 資格取得は会社命令なのか、自分の希望なのか
  2. 会社負担なのか、貸付なのか
  3. 退職した場合の返還規定があるか
  4. 何年間勤務すれば返還が免除されるのか
  5. 全額返還なのか、勤務期間に応じて減額されるのか

特に重要なのが、申込書・誓約書・就業規則・資格取得支援規程です。

「先輩も利用しているから大丈夫」と考えるのではなく、自分がどのような条件に同意するのか確認してから利用することをおすすめします。

会社側にも制度設計が求められる

この問題は従業員だけの問題ではありません。

人材育成を進める企業にとっても重要です。

「資格を取らせたのだから5年間辞めるな」という発想で制度を作ると、資格取得支援が人材育成ではなく退職を防ぐための拘束手段と受け取られかねません。

むしろ、

「1年未満なら100%、1年以上2年未満なら50%、2年以上なら返還不要」

など、費用や資格の性質に応じた合理的な仕組みを検討することも考えられます。ただし、こうした段階的な仕組みなら自動的に適法になるという意味ではなく、実際の制度設計は専門家への確認が必要です。

厚生労働省が紹介する考え方でも、返還免除基準や返済額・方法の合理性などが判断要素とされています。(厚生労働省)

まとめ|「会社が払った資格だから返す」とは限らない

会社負担で取得した資格について、退職時に費用の返還を求められたとしても、必ず返還義務が発生するとは限りません。

一方で、労働基準法16条があるからといって、すべての資格取得費用について返還を拒否できるわけでもありません。

ポイントになるのは、

「退職に対する違約金なのか」
「本人が自由意思で受けた資格取得なのか」
「業務上必要な教育だったのか」
「独立した貸付契約なのか」
「返還条件や金額は合理的なのか」

という実態です。厚生労働省も、こうした複数の要素から総合的に判断する考え方を示しています。(厚生労働省)

FPの視点では、資格は将来の収入を増やすための重要な「自己投資」です。

しかし、会社の資格取得支援を利用するときには、「いくら補助してもらえるか」だけでなく「退職するといくら返す可能性があるのか」まで確認することが重要です。

転職を考えてから規程を読むのではなく、資格取得支援を申し込む段階で契約内容を確認しておく。

それが、資格をキャリアアップの武器にしながら、思わぬ金銭トラブルを避けるためのポイントといえるでしょう。

それでは、ありがとうございました!

※本記事は一般的な制度・裁判例の考え方を整理したもので、個別案件の法的判断を行うものではありません。実際に会社から高額な返還請求を受けた場合には、労働局や弁護士などへの相談を検討してください。

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この記事を書いた人

金融・不動産・年金・リスク管理分野を専門とし、FP技能士1級、宅地建物取引士、管理業務主任者、貸金業務取扱主任者など多数の国家資格・金融資格を保有。

銀行業務検定では財務・法務・税務・年金・融資管理・金融リスクマネジメント等に合格し、近年はDX、生成AI、サイバーセキュリティ、サステナビリティ領域にも知見を広げている。

「難しい制度を、誰でも理解できる言葉で伝える」をテーマに、資産防衛・老後対策・金融リテラシー向上に関する情報発信を行っている。

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