世界遺産として知られる和歌山県の高野山で、宿坊を運営する複数の宗教法人が大阪国税局の税務調査を受け、総額1億円を超える申告漏れを指摘されていたことが明らかになりました。
報道によると、2025年度に宿坊を営む約50法人のうち十数法人が調査を受け、半数以上で申告漏れが確認されたとされています。
追徴税額は全体で約6000万円に上り、住職側の私的な支出を法人の経費として処理していたケースなども確認されたと報じられています。(テレ朝NEWS)
「寺や神社などの宗教法人には税金がかからないのでは?」
ニュースを見て、このように疑問に感じた方もいるのではないでしょうか。
しかし、宗教法人だからといって、すべての収入が非課税になるわけではありません。
今回の高野山の事例は、宗教法人における宗教活動と収益事業の区分、さらに組織のお金と個人のお金を分ける「ガバナンス」の重要性を考えるうえで、非常に分かりやすい事例といえます。
今回はファイナンシャルプランナーの視点から、宗教法人のお金と税金の仕組みについて解説します。
高野山の宿坊で何が起きたのか

高野山は弘法大師・空海が開いた真言密教の聖地で、2004年には「紀伊山地の霊場と参詣道」の一部として世界遺産に登録されています。
現在は寺院に宿泊し、精進料理や写経、瞑想などを体験できる「宿坊」が国内外の観光客から人気を集めています。
今回、大阪国税局はこうした宿坊事業の実態を調べるため、2025年度に約50の宗教法人のうち十数法人を調査。
その結果、半数以上で総額1億円を超える申告漏れが確認されたと報道されています。(FNNプライムオンライン)
中には、
・住職側の私的支出を宗教法人の経費として計上する
・宿坊事業の所得を少なく申告する
・家族への金銭支出について源泉徴収を行っていない
といったケースがあったとされています。
特に総持院では、住職の家族が2022年から2024年までの3年間に宿坊収入などを私的に支出していたとして、国税当局がこれを給与と認定。
約9000万円の源泉所得税の徴収漏れを指摘し、重加算税を含め約4000万円を追徴課税したと報じられています。(FNNプライムオンライン)
ここで重要なのは、
「宗教法人だから税金がかからない」という単純な話ではない
ということです。
宗教法人はなぜ非課税といわれるのか
宗教法人は、法人税法上「公益法人等」に分類されています。
そのため株式会社などの一般企業とは税金の仕組みが異なります。
国税庁によれば、宗教法人などの公益法人等については、原則として収益事業から生じた所得に対して法人税が課税される仕組みになっています。(国税庁)
つまり、
宗教活動による収入
↓
原則として法人税の課税対象外
収益事業による所得
↓
法人税の課税対象
という区分があります。
代表的なものを整理すると、次のようになります。
宗教活動に関連する主な収入
・さい銭
・お布施
・戒名料
・玉串料
・祈祷などに伴う喜捨
こうした宗教活動に直接関係する収入は、一般的に収益事業には該当しません。
国税庁の税務大学校の研究でも、宗教活動によって献納される喜捨金などについては、原則として法人税法上の収益事業には当たらないと整理されています。(国税庁)
一方で、
・宿泊施設の経営
・飲食店
・物品販売
・駐車場
・不動産貸付
など、一般の企業でも行われている事業については、条件を満たせば「収益事業」として課税対象になります。
なぜ宿坊は課税対象になるのか
今回の問題を理解するうえで最も重要なのが「宿坊」です。
宿坊というと、
「寺に泊まって修行体験をする宗教活動なのだから非課税では?」
と思うかもしれません。
しかし、宿泊料を受け取って継続的に宿泊サービスを提供している場合、一般のホテルや旅館と競合する事業でもあります。
そのため、宿泊事業による所得は収益事業として課税対象になる場合があります。
実際、今回の高野山の報道でも、さい銭などの宗教活動に関する収入は課税されない一方、宿坊のような営利目的の事業による所得は課税対象になるとされています。(テレ朝NEWS)
さらに消費税についても、宗教法人だから自動的に非課税になるわけではありません。
国税庁は、宗教法人を含む法人についても「事業者」に該当し、国内で事業として対価を得て行う取引については原則として消費税の対象になると説明しています。(国税庁)
ここでも、
「宗教法人かどうか」
だけではなく、
「何の対価として受け取ったお金なのか」
を見ることが重要なのです。
お布施と宿泊料を同じ財布に入れると問題になる
宗教法人の会計で難しいところは、課税されない宗教活動と課税される収益事業を同じ法人が行っている点です。
例えば、
お布施 1000万円
宿坊売上 5000万円
があったとします。
この場合、6000万円すべてを同じ収入として管理するのではなく、
宗教活動
収益事業
を適切に区分して管理する必要があります。
経費についても同じです。
例えば、
本堂の修繕費
宿坊の客室改装費
精進料理の食材費
僧侶の宗教活動費
などを、どの部門の費用として処理するのか整理しなければなりません。
ここが曖昧になると、
「本来は課税事業の経費ではないものまで宿坊の経費に入れてしまう」
といった処理につながる可能性があります。
今回の高野山のケースでも、非課税部門と課税部門の収支が混在したことが申告漏れにつながった可能性が報じられています。(StartHome)
宗教法人のお金と住職個人のお金は別物
もう一つ重要なのが、
宗教法人のお金=住職個人のお金ではない
という点です。
国税庁も2026年版「宗教法人の税務」の中で、
宗教法人の会計と住職など個人の家計は明確に区分する必要がある
と説明しています。
宗教活動に伴う収入や宗教法人の資産から生じる収入は、原則として宗教法人に帰属します。(国税庁)
例えば、寺に入った100万円を、
「自分が住職だから自由に使ってよい」
ということにはなりません。
法人のお金を住職やその家族が生活費、買い物、旅行などに利用すれば、その支出の性質によっては、
給与
役員報酬
貸付金
その他の個人に対する利益供与
などとして税務上判断される可能性があります。
これは株式会社でも同じです。
会社の社長が会社の口座から自宅の生活費を自由に引き出せないのと同じように、宗教法人でも「法人」と「個人」は区別する必要があります。
「隠し給与」と認定されると源泉徴収の問題も発生する
今回注目されたのが「隠し給与」という考え方です。
宗教法人のお金を住職や家族が私的に使っていた場合、税務当局がその支出を実質的な給与と判断することがあります。
給与であれば、宗教法人側には源泉徴収義務が発生します。
国税庁によれば、宗教法人も源泉徴収義務者であり、住職や職員などへ給与を支払う場合には、原則として所得税などを源泉徴収して納付する必要があります。(国税庁)
例えば、
法人から家族へ100万円を支出
↓
実質的に家族への給与と認定
↓
源泉所得税が必要
という流れです。
源泉徴収していなければ、
源泉所得税
加算税
延滞税
などが生じる可能性があります。
意図的な所得隠しと認定されれば、さらに重い税負担につながる場合もあります。
だからこそ、
「法人から個人へお金を動かすとき」
には、その理由を明確にしておく必要があります。
FPの視点で考える「ガバナンス」とは
今回のニュースは税金の問題として報道されていますが、FPの立場から見ると、より本質的なのはガバナンスの問題だと考えられます。
ガバナンスとは簡単にいえば、
「組織のお金を適切に管理・監督する仕組み」
です。
特に宗教法人のような組織では、
住職
家族
法人
の距離が非常に近くなるケースがあります。
すると、
「昔からこうやっている」
「寺のお金と家のお金は同じようなもの」
という感覚が残りやすくなります。
しかし、宿坊の売上が数千万円、場合によっては億単位になれば、もはや家計簿の延長線上で管理することは難しくなります。
インバウンドによって宿坊が本格的な観光事業へと成長すればするほど、
企業と同じレベルの会計管理
が求められるようになるでしょう。
宿坊の「ビジネス化」で税務リスクも高まる
高野山では近年、外国人観光客の増加によって宿坊が人気を集めています。
精進料理、座禅、写経、瞑想などは、日本文化を体験したい外国人旅行者にとって魅力的な観光コンテンツです。
一方で、
オンライン予約
クレジットカード決済
旅行予約サイトへの掲載
多言語対応
高価格帯の宿泊プラン
などが広がれば、宿坊は従来の「参拝者のための宿泊施設」から、一般のホテル・旅館に近いビジネスへ変化していきます。
すると、
宗教活動なのか
収益事業なのか
という境界線もより重要になります。
国税庁の研究でも、料金が設定された宗教的サービスなどについては、対価性や一般事業者との競合可能性などを踏まえ、収益事業に該当するかを総合的に判断する必要があるとされています。(国税庁)
宗教法人のビジネスモデルが変化すれば、税務や会計の管理体制も合わせて変えていかなければならないのです。
宗教法人が今後求められる5つのお金の管理
今回の事例から、特に重要だと思われるポイントを整理すると次の5つです。
1.宗教活動と収益事業を明確に区分する
お布施、さい銭などの宗教収入と、宿泊・飲食・物販などの収益事業を帳簿上明確に分けることが基本です。
2.法人と個人のお金を完全に分ける
宗教法人名義の口座と住職個人・家族の口座を明確に分離します。
法人のカードを個人的な買い物に利用しないことも重要です。
3.家族への支払いを明確にする
家族が宿坊の受付や経理などで実際に働いているのであれば、
勤務実態
給与額
支払日
源泉徴収
などを明確にしておく必要があります。
4.収益事業ごとの損益を把握する
宿坊、飲食、物販、駐車場などを行っている場合には、それぞれどの程度利益が出ているのか把握できる仕組みが望まれます。
5.税理士など外部専門家を活用する
事業規模が大きくなれば、住職や寺院関係者だけですべての税務・会計を管理するのは難しくなります。
税理士や会計の専門家による定期的なチェックを受けることも、ガバナンス強化につながります。
一般企業や個人事業主にも共通する問題
今回の話は宗教法人だけの特殊な問題ではありません。
個人経営の会社でも、
会社のお金で私物を買う
家族への支払いを曖昧にする
事業用口座と生活用口座を混在させる
領収書だけで何でも経費にする
といった問題は起こります。
特にオーナー経営の中小企業や個人事業主では、
「自分のお金」と「事業のお金」
の境界が曖昧になりやすい傾向があります。
FPとして考えれば、税金を減らすこと以上に重要なのは、
「お金の流れを誰が見ても説明できる状態にすること」
です。
これは宗教法人でも企業でも家庭でも共通しています。
まとめ|非課税だからこそ「区分管理」が重要
今回、高野山の宿坊を運営する複数の宗教法人で総額1億円を超える申告漏れが指摘されたことで、宗教法人の税務が改めて注目されました。(テレ朝NEWS)
宗教法人には税制上の特別な扱いがありますが、
「宗教法人=税金がかからない」
という意味ではありません。
お布施やさい銭などの宗教活動による収入と、宿坊や物販などの収益事業による所得は分けて考える必要があります。
さらに重要なのが、
法人のお金と住職・家族個人のお金を明確に分離すること
です。
インバウンドの拡大などによって寺院や宿坊の事業規模が大きくなればなるほど、会計処理、税務、内部管理の重要性も高まります。
今回の高野山の事例は、「税金を払ったかどうか」という問題だけではなく、
組織のお金をどのように管理するべきなのか
というガバナンスの問題を私たちに示しているのではないでしょうか。
宗教法人であっても企業であっても、
収入の性質を分ける
個人と法人のお金を分ける
支出の根拠を残す
第三者が確認できる仕組みを作る
という基本は変わりません。
FPの視点から見ても、適切な資産管理とは「節税すること」だけではありません。
お金の流れを透明化し、誰に対しても説明できる状態を作ることこそ、長期的に組織や資産を守るための基本
といえるでしょう。
それでは、ありがとうございました!

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