年金の繰上げ支給はここが怖い!減額率・障害年金・加給年金の注意点を問題形式で解説

老齢年金は、原則として65歳から受け取る制度です。

しかし、

「60歳で退職するので、年金を早く受け取りたい」

「貯金を取り崩すより、年金を先にもらった方が安心では?」

と考える方もいるでしょう。

そこで利用できるのが、年金の繰上げ受給です。

老齢基礎年金・老齢厚生年金を本来の65歳より前から受け取ることができますが、その代わり年金額は減額されます。

しかも、その減額は65歳になれば元に戻るわけではありません。

一度繰上げ請求すると、減額された年金額が原則として生涯続きます (年金ネット)

さらに注意したいのが、

  • 障害年金との関係
  • 加給年金との関係
  • 付加年金の扱い
  • 在職老齢年金
  • 繰上げ請求を取り消せないこと

です。

特に**「加給年金も一緒に早くもらえるの?」**という点は非常に間違いやすいところです。

今回は、年金の繰上げ受給について、2026年時点の制度をもとにわかりやすく解説します。

目次

年金の繰上げ受給とは?

老齢基礎年金と老齢厚生年金は原則65歳から受給しますが、希望すれば60歳から65歳になるまでの間に受給開始を前倒しできます。

これが「繰上げ受給」です。(年金ネット)

例えば、本来65歳から受け取る年金を60歳から受け取り始めることもできます。

ただし、早く受け取る代わりに年金額が減額されます。

繰上げ受給すると何%減る?

減額率は生年月日によって異なります。

1962年4月2日以降生まれ

1か月繰り上げるごとに、

0.4%減額

されます。

60歳から受け取る場合は、65歳まで60か月ありますので、

0.4%×60か月=24%

の減額です。

つまり、本来100万円受け取れる年金なら、単純化すると、

100万円×76%=76万円

となります。

そして、この76%という割合は65歳以降も続きます。

1962年4月1日以前生まれ

1か月につき、

0.5%減額

です。

最大60か月繰り上げると30%減額となります。(年金ネット)

したがって、FP試験でも、

「1962年4月2日以降=0.4%」

という生年月日の境目は重要なポイントです。

老齢基礎年金と老齢厚生年金は原則同時に繰り上げる

繰下げ受給では、老齢基礎年金と老齢厚生年金を別々に繰り下げることができます。

しかし、繰上げは考え方が違います。

老齢基礎年金と老齢厚生年金の両方を受給できる人は、原則として両方を同時に繰上げ請求する必要があります。 (年金ネット)

例えば、

「老齢厚生年金だけ60歳から受け取り、老齢基礎年金は65歳まで待つ」

という自由な選択は原則できません。

ここは繰上げと繰下げの大きな違いなので覚えておきましょう。

繰上げ受給で特に注意したいのは「障害年金」

繰上げ受給の最大の注意点の一つが、障害年金との関係です。

よく、

「繰上げ請求すると障害年金が一切もらえなくなる」

と説明されることがあります。

しかし、これは少し表現が強すぎます。

正確には、繰上げ請求をした後は、事後重症などによる障害基礎年金・障害厚生年金の請求ができなくなる場合があるため注意が必要です。

特に60歳から65歳までの間は、病気やけがによって健康状態が変化する可能性があります。

例えば、

60歳の時点では障害等級に該当しなかった

62歳で病状が悪化

障害年金を請求したい

というケースです。

先に老齢年金を繰上げ請求していると、障害年金の請求に制約が生じることがあります。

そのため、現在治療中の病気がある場合などには、「年金額が減るかどうか」だけで繰上げを決めないことが非常に重要です。

日本年金機構も、繰上げ請求後は取り消しや変更ができないため、事前に年金事務所などで試算してから手続きするよう案内しています。(年金ネット)

加給年金は繰上げするとどうなる?

ここが今回、最も重要なポイントです。

まず、加給年金とは何でしょうか。

加給年金とは「厚生年金の家族手当」のようなもの

加給年金は、一定の要件を満たす老齢厚生年金の受給者に、対象となる配偶者や子がいる場合に加算される年金です。

代表的には、

厚生年金の被保険者期間が原則20年以上あり、65歳になった時点で生計を維持している65歳未満の配偶者がいる

といった場合に対象となります。(年金ネット)

そのため、

「夫が65歳、妻が60歳」

といった年齢差のある夫婦では、老後資金計画に大きく影響することがあります。

老齢厚生年金を60歳から繰り上げたら、加給年金も60歳からもらえる?

ここを間違えやすいのですが、

原則として、そうではありません。

老齢厚生年金本体を60歳から繰上げ受給したからといって、加給年金まで一緒に60歳から前倒しされるわけではありません。

加給年金は基本的に、本人が65歳到達時点など所定の要件を満たしているかによって加算されます。(年金ネット)

例えば、

夫:60歳
妻:55歳

で、夫が老齢厚生年金を60歳から繰上げたとしましょう。

この場合、

60~64歳:減額された老齢厚生年金を受給

そして65歳になった時点で加給年金の要件を満たしていれば、

65歳以降:老齢厚生年金+加給年金

というイメージになります。

つまり、

「年金本体を繰り上げた=加給年金まで前倒し」ではない

ということです。

加給年金そのものは繰上げで減額される?

これも重要です。

加給年金額そのものは、繰上げによる0.4%の減額計算の対象ではありません。

日本年金機構では、繰上げによる老齢厚生年金の減額について、

「老齢厚生年金の額(加給年金額を除く)」

を基準として計算するとしています。(年金ネット)

したがって、

「60歳から5年間繰り上げたので、加給年金も24%減額」

とはなりません。

ここは非常に重要です。

整理すると、

項目繰上げした場合
老齢基礎年金減額される
老齢厚生年金本体減額される
付加年金老齢基礎年金と同じ率で減額
加給年金繰上げ減額の対象外
加給年金の開始原則として所定の年齢・要件を満たしてから

この違いを覚えておくと、FP試験でも実務でも整理しやすくなります。

「付加年金」と「加給年金」は名前が似ているが全く違う

特に間違いやすいので、もう一度整理しましょう。

付加年金

国民年金の第1号被保険者などが付加保険料を支払うことで、老齢基礎年金に上乗せされる制度です。

老齢基礎年金を繰り上げると、付加年金も一緒に繰り上げられ、同じ減額率が適用されます。

加給年金

厚生年金に一定期間加入した人に、一定の配偶者や子がいる場合などに加算されるものです。

こちらは、

繰上げによる減額計算から除外

されます。

そして、老齢厚生年金を60歳から受給したからといって、加給年金まで60歳から自動的に始まるわけではありません。

覚え方としては、

付加年金=本人の基礎年金についていく

加給年金=家族の状況を見て一定時期から付く

と考えるとわかりやすいでしょう。

加給年金を考えるなら「配偶者の年齢」が非常に重要

繰上げ受給を検討するときには、本人の年齢だけを見るのでは不十分です。

特に加給年金の対象になる可能性がある場合、

配偶者が何歳なのか

が重要になります。

例えば、

夫65歳
妻64歳

なら、妻が65歳になるまでの期間は短くなります。

一方、

夫65歳
妻55歳

なら、加給年金が支給され得る期間は長くなる可能性があります。

そのため、年齢差のある夫婦では、

「自分の老齢厚生年金をいつから受け取るか」だけでなく、「加給年金を何年間受け取れる可能性があるか」

まで含めて試算した方がよいでしょう。

また、配偶者自身の厚生年金加入歴などによって加給年金が支給停止となる場合もあります。

単純に、

「妻が65歳未満なら必ずもらえる」

という制度ではない点にも注意が必要です。(年金ネット)

2026年の在職老齢年金は「65万円」がポイント

60歳以降も働きながら年金を受け取る場合には、在職老齢年金も確認しておきましょう。

2026年4月から制度が見直され、2026年度の支給停止調整額は月65万円となっています。(年金ネット)

厚生年金に加入して働く人の場合、

賃金+老齢厚生年金

が月65万円を超えると、老齢厚生年金の一部または全部が支給停止になる可能性があります。

一方、老齢基礎年金は在職老齢年金による支給停止の対象ではありません。

したがって、

「60歳から年金を繰り上げよう」

と考えている人でも、65歳まで働く予定なら、

  • 給与はいくらになるのか
  • 老齢厚生年金はいくらになるのか
  • 在職老齢年金で停止されないか

を確認してから判断した方がよいでしょう。

2028年4月から加給年金なども一部見直し

今後の制度改正にも注意が必要です。

2028年4月から、子に係る年金加算の拡充や、老齢厚生年金の配偶者に係る加給年金額の見直しが予定されています。(厚生労働省)

厚生労働省の資料では、配偶者に係る加給年金については将来の新規受給者の加算額を見直し、すでに受給している人については従来の額を維持する仕組みが示されています。(厚生労働省)

したがって、今後60代になる人は、

現在の制度だけでなく、自分が受給権を得る時点の制度

を確認する必要があります。

4択クイズ|繰上げ受給で正しいものはどれ?

ここまでの内容を、FP試験をイメージした問題で確認しましょう。

問題

1962年4月10日生まれの人が老齢年金の繰上げ受給を検討しています。

次の記述のうち、最も適切なものはどれでしょうか。

  1. この人の繰上げ減額率は1か月につき0.5%である。
  2. 老齢年金を繰上げ請求すると、事後重症などによる障害年金の請求ができなくなる場合がある。
  3. 老齢基礎年金は65歳まで待ち、老齢厚生年金だけを60歳から繰り上げることが原則として自由にできる。
  4. 老齢厚生年金を60歳から繰り上げれば、加給年金も60歳から支給され、同じ率で減額される。

正解は「2」

正解は2です。

選択肢1:× 0.4%

1962年4月10日生まれは「1962年4月2日以降」に該当します。

したがって減額率は、

1か月につき0.4%

です。(年金ネット)

選択肢2:○

繰上げ請求後は、事後重症などによる障害年金の請求に制約が生じます。

健康状態に不安がある人にとっては非常に重要な注意点です。

選択肢3:×

老齢基礎年金と老齢厚生年金は、原則として同時に繰上げ請求します。(年金ネット)

繰下げ受給のように自由に別々の時期を選べるわけではありません。

選択肢4:×

ここが今回の重要ポイントです。

老齢厚生年金を繰り上げても、加給年金まで同時に前倒しされるわけではありません。

また、加給年金額は老齢厚生年金本体の繰上げによる減額計算から除外されています。(年金ネット)

したがって、

「繰上げ=加給年金も早く、しかも減額されて支給」

という理解は誤りです。

まとめ|繰上げ受給は「年金が減る」以外のデメリットを見ることが重要

年金の繰上げ受給では、

「60歳から受け取れる代わりに0.4%ずつ減る」

という点だけが注目されがちです。

しかし、本当に重要なのは、その周辺制度です。

特に覚えておきたいのは、

  • 1962年4月2日以降生まれは1か月につき0.4%減額
  • 減額率は原則として生涯変わらない
  • 老齢基礎年金と老齢厚生年金は原則同時に繰り上げる
  • 繰上げ請求後は取り消せない
  • 事後重症による障害年金などに影響する
  • 付加年金は繰上げによって減額される
  • 加給年金は繰上げによる減額対象ではない
  • 老齢厚生年金を繰り上げても、加給年金まで一緒に前倒しされるわけではない
  • 働きながら受給する場合は在職老齢年金も確認する

という点です。

特に夫婦に年齢差があり、加給年金を受け取れる可能性がある場合は、本人の年金だけで判断してはいけません。

「繰上げで毎月いくら早く受け取れるか」

だけではなく、

「加給年金はいくら、何年間受け取れる可能性があるか」

「障害年金の可能性はないか」

「60歳以降も働くのか」

まで含めて考える必要があります。

繰上げ請求は、一度行うと原則として取り消すことができません。(年金ネット)

そのため、実際に利用する際は「ねんきんネット」の見込額だけで決めるのではなく、配偶者の年齢や厚生年金加入歴なども整理したうえで、年金事務所などで試算してから判断することをおすすめします。

※本記事は2026年9月時点の公的年金制度をもとに一般的に解説しています。個別の受給可否や加給年金額は、生年月日、厚生年金加入期間、配偶者の年齢・年金受給状況などによって異なります。

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この記事を書いた人

金融・不動産・年金・リスク管理分野を専門とし、FP技能士1級、宅地建物取引士、管理業務主任者、貸金業務取扱主任者など多数の国家資格・金融資格を保有。

銀行業務検定では財務・法務・税務・年金・融資管理・金融リスクマネジメント等に合格し、近年はDX、生成AI、サイバーセキュリティ、サステナビリティ領域にも知見を広げている。

「難しい制度を、誰でも理解できる言葉で伝える」をテーマに、資産防衛・老後対策・金融リテラシー向上に関する情報発信を行っている。

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