地震、台風、豪雨、洪水、土砂災害――。
近年、日本各地で大規模な自然災害が相次いでいます。2024年の能登半島地震に加え、2026年には熊本でも大きな地震が発生しました。住宅や店舗が被害を受けた場合、「家を直すお金はどうするのか」「住宅ローンは払い続けなければならないのか」「事業を再開するためのお金を借りられるのか」といった問題が一気に押し寄せます。(損保ジャパン)
災害への備えというと、水や食料、防災用品を思い浮かべる人が多いかもしれません。
しかし、もう一つ重要なのが**「お金の防災」**です。
火災保険や地震保険だけでなく、住宅ローン、事業融資、預金、公的支援制度などをあらかじめ知っておくことで、被災後の生活再建は大きく変わります。
今回はFP(ファイナンシャルプランナー)の視点から、災害時に知っておきたい保険・住宅ローン・融資、そして銀行や信用金庫など金融機関との向き合い方について解説します。
災害時のお金で最初に確認したい「保険」

住宅が地震や豪雨、台風などで被害を受けた場合、まず確認したいのが加入している保険です。
ただし、「火災保険に入っているから自然災害なら何でも大丈夫」というわけではありません。
火災保険は火事だけの保険ではない
名称から誤解されやすいのですが、火災保険の補償対象は火災だけではありません。
契約内容によっては、台風による風災、大雪による雪災、洪水や床上浸水などの水災、落雷なども補償対象になります。
一方、水災補償を外している契約もあるため、「火災保険に加入している=洪水も補償される」とは限りません。日本損害保険協会も、火災保険には水災を補償するタイプと補償しないタイプがあることを示しています。(損保ジャパン)
特に河川の近くや低地、ハザードマップ上で浸水リスクが高い地域では、水災補償の有無を一度確認しておきたいところです。
地震による被害は原則として地震保険
もう一つ重要なのが地震保険です。
地震・噴火・津波を原因とする火災や倒壊、流失などは、原則として通常の火災保険では補償されません。
地震による住宅や家財の被害に備えるには地震保険が重要になります。地震保険は居住用建物や家財を対象とし、地震・噴火・津波による火災、損壊、埋没、流失などを補償します。(損保の相談ガイド)
「住宅ローンを組むときに火災保険には入ったけれど、地震保険については覚えていない」という人は、保険証券や契約者専用ページを確認してみましょう。
災害で住宅ローンが払えなくなったらどうする?
住宅が大きな被害を受けても、基本的には住宅ローンそのものが自動的になくなるわけではありません。
ここが災害時の家計で非常に深刻な問題になります。
例えば住宅が全壊し、新しい住居を確保する必要があるにもかかわらず、それまで住んでいた住宅のローンが残っていれば、
「元の住宅ローン+新しい住居費」
という、いわゆる二重負担が発生する可能性があります。
だからこそ重要なのが、返済が難しくなった段階で金融機関へ早めに相談することです。
銀行や信用金庫では返済猶予などを相談できる場合がある
大規模災害が発生した際、金融庁は金融機関に対して、被災者への柔軟な対応を要請することがあります。
具体的には、応急資金の融資相談、融資手続きの簡便化、既存融資の返済猶予や貸付条件の変更などです。(金融庁)
つまり、
「住宅ローンが払えないから延滞するしかない」
と考えるのではなく、延滞する前に銀行や信用金庫へ相談することが重要なのです。
返済期間の見直し、一定期間の元金返済猶予など、個々の状況に応じた方法を相談できる可能性があります。
もちろん、必ず返済が免除されるわけではありません。対応は被災状況、収入、借入内容などによって異なります。
「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」もある
被害が大きく、返済条件を変更するだけでは住宅ローンなどの返済が難しい場合には、**「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」**を利用できる可能性があります。
金融庁によると、このガイドラインを活用することで、一定の要件の下、住宅ローンなどの免除・減額を申し出ることができます。(金融庁)
「自己破産するしかない」と早急に判断するのではなく、まず借入先の金融機関へ相談することが大切です。
中小企業・個人事業主は災害時の融資をどう考える?
災害の影響は住宅だけではありません。
店舗や工場、事務所、設備が被害を受ければ、中小企業や個人事業主は事業継続そのものが難しくなる場合があります。
さらに厄介なのが、建物に直接被害がなくても、
取引先が被災した
物流が止まった
観光客が減った
休業によって売上が減少した
といった「間接的な被害」です。
こうしたときにも金融機関への早めの相談が重要です。
災害復旧のための公的融資もある
日本政策金融公庫では、地震、台風、豪雪、大規模火災などで被害を受けた中小企業を対象とする「災害復旧貸付」を用意しています。
対象となる場合には、設備の復旧資金だけでなく、長期運転資金に利用できる制度もあります。また、災害による直接被害だけでなく、被災企業との取引によって売上減少などの間接的な被害を受けた事業者が対象になる場合もあります。(日本フードサービス協会)
災害によって売上が急減すると、経営者は「とにかく借りられるところから借りる」と考えてしまいがちです。
しかし、災害時だからこそ資金繰り表を作り、
現在の現預金→保険金→補助・支援金→金融機関融資
という順番で必要資金を整理することが大切です。
高金利の借入れを急いで利用する前に、まず取引銀行、信用金庫、日本政策金融公庫、信用保証協会などへ相談した方がよいでしょう。
災害時、銀行や信用金庫は「お金を借りる場所」だけではない
災害が発生したとき、金融機関は単に融資を行うだけではありません。
金融庁は災害時の金融上の措置として、預金通帳や印鑑を紛失した被災者について、被災状況を踏まえた簡易な確認方法による預金払い戻しや、定期預金・定期積金の中途解約、損傷した紙幣・貨幣への対応などを金融機関に求めています。(金融庁)
災害時に金融機関へ相談できる主な内容を整理すると、次のようになります。
| 困っていること | 相談先・確認事項 |
|---|---|
| 通帳・印鑑をなくした | 取引銀行・信用金庫へ預金払戻しを相談 |
| 住宅ローンが払えない | 返済猶予・条件変更などを相談 |
| 事業資金が不足した | 取引金融機関・日本政策金融公庫などへ相談 |
| 自宅が壊れた | 火災保険・地震保険の契約内容を確認 |
| 生活再建資金が不足 | 自治体の支援制度を確認 |
| 多額の住宅ローンが残った | 自然災害債務整理ガイドラインを相談 |
災害時には「銀行に相談するとすぐ返済を迫られるのではないか」と心配する人もいるかもしれません。
しかし実際には、被災後ほど早い段階で金融機関へ状況を伝えることが重要です。
金融機関側も、何も連絡がない状態より、被害状況や今後の収入見込み、必要資金などが把握できた方が対応を検討しやすくなります。
公的支援も忘れてはいけない
保険と融資だけで生活再建を考える必要はありません。
一定規模以上の自然災害で住宅に大きな被害を受けた世帯には、「被災者生活再建支援制度」が適用される場合があります。
内閣府によると、対象となる世帯には住宅の被害程度や再建方法に応じて、最大300万円の支援金が支給される仕組みがあります。(防災ポータルサイト)
ただし、すべての災害・すべての被災世帯が300万円を受け取れるわけではありません。
災害の規模、住宅の被害程度、世帯状況、住宅を建築・購入するのか、補修するのか、賃借するのかなどによって支給額は変わります。
そのため被災後は、
保険会社だけでなく、市区町村の窓口にも相談する
ことが重要になります。
被災したら「証拠を残してから片付ける」
FPとしてぜひ覚えておいていただきたいのが、被災直後の写真です。
安全確保が最優先ですが、可能であれば片付けや修理を始める前に、住宅や家財、店舗、設備などの被害状況をスマートフォンなどで撮影しておきましょう。
金融庁も、罹災証明書の交付に時間がかかる場合などには、金融機関が現況写真など別の方法によって被災状況を確認するなど、柔軟に対応するよう要請しています。(金融庁)
なお、損害保険の保険金請求については、必ずしも自治体の罹災証明書が必要とは限りません。例えば日本損害保険協会は、地震災害における損害保険金の請求について、自治体が発行する罹災証明書の提出は不要と案内しています。(損保ジャパン)
保険会社・自治体・金融機関では必要書類が異なるため、それぞれに確認しましょう。
災害前にやっておきたい「お金の防災」
災害は発生してからできることに限界があります。
大切なのは、平時から家計と金融取引を整理しておくことです。
特に確認しておきたいのは、火災保険の水災補償、地震保険、住宅ローン残高、預貯金、緊急予備資金、利用している銀行・信用金庫、保険会社などです。
保険証券を紙だけで保管している場合には、スマートフォンやクラウドなどにも契約内容を控えておくと安心です。
また、住宅ローンを抱えている家庭では、住宅が被災した場合に「ローン残高はいくら残るのか」という視点も必要でしょう。
事業者であれば、金融機関との日頃からの関係も重要になります。
決算内容、資金繰り、取引先の状況などを普段から金融機関と共有しておけば、災害時にも相談がしやすくなります。
FPが考える「災害時のお金」の優先順位
災害が起こると、不安からさまざまな手続きを一度に進めたくなります。
しかし、お金については順番を意識することが大切です。
最優先は生命と安全の確保です。そのうえで被害状況を記録し、保険会社や自治体へ連絡します。
住宅ローンや事業融資の返済が難しくなりそうなら、返済期限を迎える前に金融機関へ相談します。
そして保険金、公的支援、自分の預貯金などを確認したうえで、それでも不足する資金について融資を検討するという流れが基本になります。
災害直後に慌てて高金利の借入れを増やすのではなく、**「もらえるお金・使える保険・返済を待ってもらえるお金・新たに借りるお金」**を整理することが、生活再建への第一歩です。
まとめ|災害時こそ金融機関へ早めに相談しよう
地震や豪雨、台風などの自然災害は、建物だけでなく家計や事業にも大きなダメージを与えます。
火災保険や地震保険は重要ですが、それだけですべての損害をカバーできるとは限りません。
住宅ローンが残っている家庭では返済負担、事業者であれば運転資金や設備復旧資金という問題も発生します。
そんなとき覚えておきたいのが、銀行や信用金庫は「借金を返す相手」であると同時に、「災害時にお金について相談する窓口」でもあるということです。
実際、災害時には返済猶予や貸付条件変更、応急資金の融資、預金の柔軟な払い戻しなど、さまざまな金融上の対応が行われる場合があります。(金融庁)
「返済できなくなってから相談する」のではなく、
「返済が難しくなりそうな段階で相談する」
ことが非常に重要です。
そして平時から、保険・預貯金・住宅ローン・事業融資を一度棚卸ししてみてください。
水や食料を備蓄する「防災」と同じように、これからの日本では**「お金の防災」**も家計管理の重要なテーマになっていくのではないでしょうか。
※本記事は一般的な制度を解説したものであり、個別の保険金支払いや融資、返済条件変更、債務整理、公的支援制度の利用を保証するものではありません。実際の被災時には、加入している保険会社、借入先金融機関、自治体、日本政策金融公庫などに最新の条件をご確認ください。

コメント