銀行や信用金庫、一般企業が金利上昇に備える方法の一つに「金利スワップ」があります。
金利スワップを使うと、固定金利と変動金利を交換することで、金利が上がったときの負担を軽くすることができます。
ところが、金利スワップには一つ大きな問題があります。
それが、
「会計処理が少し難しい」
ということです。
金利スワップは「デリバティブ」と呼ばれる金融取引にあたるため、通常は決算のたびに現在の価値を計算し、その値上がりや値下がりを利益や損失として計上します。
しかし、これをそのまま行うと、
実際には金利リスクを減らすための取引なのに、決算上の利益や損失が大きく動いてしまう
ことがあります。
そこで使われるのが「ヘッジ会計」です。
この記事では、金利スワップの会計処理とヘッジ会計、さらに税効果会計について、中学生でもイメージできるように解説します。
1.そもそも金利スワップとは?

金利スワップとは、簡単にいえば、
固定金利と変動金利を交換する契約
です。
例えば、ある会社が銀行から100億円を変動金利で借りているとします。
変動金利なので、市場金利が上がると支払う利息も増えてしまいます。
そこで、
固定金利を支払い、変動金利を受け取る金利スワップ
を契約します。
すると、
借入では変動金利を支払う
金利スワップでは変動金利を受け取る
という形になり、変動金利の影響を打ち消すことができます。
その代わり、金利スワップでは固定金利を支払います。
つまり、実質的には、
変動金利の借入を固定金利の借入に近づける
ことができます。
2.なぜ会計上の問題が起こるの?
ここが重要なポイントです。
例えば、会社が10年間の金利スワップを契約したとします。
その後、金利が大きく動くと、スワップそのものの価値も大きく変わります。
会計上は、その金利スワップを期末ごとに時価評価するのが原則です。
例えば、期末時点でスワップに1億円の評価損が出ていれば、
1億円の損失
として損益計算書に計上される可能性があります。
しかし、もともとの借入金については、その時点で実際に発生した支払利息しか費用になっていません。
つまり、
金利スワップでは将来10年間の金利変動を含めて大きな評価損益が出る
一方、
借入金では当期の利息だけが費用になる
というズレが生まれます。
これでは、
経済的には金利リスクを抑えているのに、会計上は利益が大きく上下する
という不自然な状態になることがあります。
このズレを調整するために使うのが「ヘッジ会計」です。
3.ヘッジ会計とは?
ヘッジとは、
リスクを小さくするための取引
という意味です。
ヘッジ会計とは、
リスクを減らすために行った取引と、その対象となる取引の損益をできるだけ同じタイミングで会計に反映させる方法
です。
分かりやすくいえば、
「金利スワップだけ先に大きな損失を出すのではなく、借入金などの影響と合わせて考えましょう」
という会計上の仕組みです。
4.金利スワップには3つの主な会計方法がある
金利スワップの会計処理には、大きく分けて3つの方法があります。
| 方法 | 簡単にいうと | 特徴 |
|---|---|---|
| 繰延ヘッジ | 評価損益をすぐ利益や損失にしない | P/Lの変動を抑えやすい |
| 時価ヘッジ | 対象資産とスワップを両方時価評価する | 両方の損益を同じ時期に出す |
| 特例処理 | スワップの受払を利息に含める | 条件を満たせば処理が簡単 |
5.繰延ヘッジとは?
繰延ヘッジは、
金利スワップの評価損益を、すぐに損益計算書に出さない
方法です。
例えば、金利スワップに1億円の評価損が発生したとします。
通常なら、
「1億円の損失」
としてP/Lに計上することになります。
しかし繰延ヘッジ会計を使うと、この1億円をすぐ損失にはせず、
純資産の中にいったん置いておく
という処理をします。
その後、実際に借入金の利息などが発生したタイミングに合わせて、少しずつ損益に反映させます。
つまり、
損益を出すタイミングを合わせる
のが繰延ヘッジの大きな目的です。
6.時価ヘッジとは?
時価ヘッジでは、
金利スワップだけでなく、ヘッジの対象となっている資産や負債についても価格変動を反映する
方法です。
例えば、
保有債券の価格が1億円下落
一方、
金利スワップで1億円の利益
となれば、
両方を同じ時期に損益計上することで、おおむね相殺できます。
そのため、
「債券価格の値下がりをスワップでカバーする」
といった取引との相性がよい会計方法です。
7.金利スワップの特例処理とは?
実務上、特に分かりやすいのが「特例処理」です。
これは、
金利スワップを別の商品として細かく時価評価するのではなく、借入金の金利とまとめて考える方法
です。
例えば、
借入金の変動金利を支払い
金利スワップで変動金利を受け取り
代わりに固定金利を支払う
のであれば、結果として、
固定金利で借りているような形
になります。
そこで会計上も、金利スワップの受け払いを借入金の支払利息に含めて処理します。
これにより、毎期スワップの大きな評価損益をP/Lに出す必要がなくなります。
ただし、どんなスワップでも使えるわけではありません。
借入金と金利スワップの、
想定元本
契約期間
金利の見直し日
支払日
などが、おおむね一致している必要があります。
つまり、
借入金と金利スワップがほぼセットになっている場合に使える特別な方法
と考えると分かりやすいでしょう。
8.税効果会計とは?
次に出てくるのが「税効果会計」です。
名前だけを見ると非常に難しそうですが、基本的な考え方は、
会計上の利益と税金計算上の利益の時期のズレを調整する
ことです。
例えば、繰延ヘッジで金利スワップに100万円の評価損が出たとします。
この100万円が会計上は純資産に計上されても、税金の計算上はその時点で損金にならないことがあります。
つまり、
「会計では損失扱い」
なのに、
「税務ではまだ損失扱いしない」
というタイミングのズレが起こります。
そこで税効果会計を使います。
9.100万円の評価損ならどうなる?
例えば、
金利スワップの評価損が100万円
将来の税率を30%
と仮定します。
すると、
100万円 × 30% = 30万円
となります。
この30万円は、
将来、税金を減らせる可能性がある金額
として「繰延税金資産」という形で計上することがあります。
その結果、
100万円の評価損
から
30万円の税効果
を差し引いて、
純資産への実質的な影響は70万円
という形になります。
かなり単純化すると、
「100万円損したけれど、将来30万円分は税金が減る可能性があるので、実質的な影響は70万円」
というイメージです。
10.ただし、30万円を必ず資産にできるわけではない
ここが税効果会計で重要なところです。
先ほど、
「将来30万円分、税金を減らせる可能性がある」
と説明しました。
しかし、将来会社が利益を出せなければ、そもそも税金を払う必要がありません。
税金を払わない会社に、
「将来税金を30万円減らせます」
と言っても、そのメリットを使えません。
そのため、
将来きちんと利益が出て、税金を支払う見込みがあるか
を確認する必要があります。
これを、
繰延税金資産の回収可能性
といいます。
簡単にいうと、
「将来、この税金のメリットを本当に使えますか?」
をチェックするわけです。
11.ヘッジ会計は一度使えば終わりではない
ヘッジ会計では、
「この金利スワップが本当にリスクを減らしているのか」
を確認することも重要です。
例えば、
10年債の金利リスクを減らしたいのに、まったく違う動きをするスワップを使っていたら、十分なヘッジにはなりません。
そのため、
保有資産や借入金
金利スワップ
の値動きや条件がきちんと対応しているかを継続的に確認します。
これを、
ヘッジの有効性を確認する
といいます。
もしヘッジとして機能しなくなれば、それまで使っていたヘッジ会計を続けられなくなる場合があります。
12.金融機関のALMでは会計まで考える必要がある
銀行や信用金庫などが金利スワップを使う目的は、
金利スワップで儲けること
ではありません。
基本的には、
預金
貸出
有価証券
市場調達
などを含めた金融機関全体の金利リスクを調整するためです。
例えば、長期固定金利の国債を大量に持っていると、金利上昇によって債券価格が下落するリスクがあります。
そのリスクを金利スワップで減らすこともできます。
しかし、
「経済的にはリスクが減った」
としても、
「会計上はスワップの評価損益が大きく出た」
となれば、決算が大きく動いてしまいます。
そのためALMでは、
①どのくらい金利リスクを減らすのか
だけでなく、
②会計上どのような損益が出るのか
さらに、
③税金にどのような影響が出るのか
までセットで考えることが重要です。
まとめ|金利スワップは「リスク」と「会計」をセットで考える
金利スワップは、金利上昇リスクを減らすうえで非常に便利な仕組みです。
しかし、金利スワップはデリバティブ取引なので、何も対策をしなければ毎期の時価評価によって利益や損失が大きく動く可能性があります。
そこで使われるのが「ヘッジ会計」です。
繰延ヘッジなら、
評価損益をすぐP/Lに出さず、ヘッジ対象の損益が発生する時期まで待つ
ことができます。
条件を満たす金利スワップであれば、
特例処理によって借入金の利息と一体で処理する
こともできます。
さらに、繰延ヘッジを使う場合には、
税効果会計
も考える必要があります。
金利スワップをALMに使う場合に大切なのは、
「金利リスクが減るかどうか」だけで判断しないこと
です。
金利リスク、会計上の損益、純資産、税金への影響まで含めて考えて、初めて本当の意味でのALM管理になります。
特に金融機関では、運用部門だけで判断するのではなく、経理・財務・リスク管理・監査などの関係部署と事前に整理しておくことが重要です。

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