銀行や信用金庫などの金融機関は、お客さまから預かったお金を、貸出だけでなく国債や社債、外国債券などでも運用しています。
ところが、金利が上がると、すでに持っている債券の価格は下がりやすくなります。
その結果、
「債券に大きな含み損が出る」
という問題が起こります。
この含み損が大きくなると、金融機関の純資産や自己資本に影響し、経営の余裕が小さくなることがあります。
そこで重要になるのが、
金利リスクを減らすためのヘッジ
です。
この記事では、金利上昇によって自己資本がどのように影響を受けるのか、そして金融機関がどのような方法でリスクを抑えるのかを、中学生でもイメージできるように解説します。
1.なぜ金利が上がると債券に含み損が出るの?

まず、債券価格と金利の関係を理解しておきましょう。
例えば、昔買った国債の利回りが0.5%だったとします。
その後、金利が上がって、新しく発行される国債の利回りが2%になったとしましょう。
すると、多くの投資家は、
「0.5%の古い国債より、2%の新しい国債を買いたい」
と考えます。
そのため、昔の0.5%の国債を途中で売ろうとすると、値段を下げなければ買ってもらいにくくなります。
これが、
金利が上がると債券価格が下がりやすい
理由です。
2.含み損が大きくなると、なぜ自己資本が苦しくなるの?
金融機関が持っている債券の中には、会計上「その他有価証券」として扱われるものがあります。
これらは、期末に現在の市場価格で評価されます。
例えば、
100億円で買った債券が
90億円まで値下がりした
とします。
すると、10億円の含み損が発生します。
この評価差額が純資産を押し下げる場合、
金融機関が持っている経営上のクッションが小さくなる
ことになります。
イメージとしては、
家計で100万円の貯金があったのに、持っている金融商品の値下がりで実質的な資産が90万円になった
ようなものです。
3.自己資本比率とは?
金融機関の安全性を見る代表的な数字が、
自己資本比率
です。
簡単にいうと、
「金融機関が取っているリスクに対して、自分のお金をどれくらい持っているか」
を見る数字です。
大まかなイメージは、
自己資本 ÷ リスクの大きさ
です。
例えば、
自己資本が100
リスクが1,000
なら、
自己資本比率は10%
というイメージです。
自己資本が減れば、この比率も低くなりやすくなります。
そのため金融機関にとって、
債券の含み損を増やしすぎないこと
は重要な課題になります。
4.金利上昇で自己資本が悪化する3つのルート
金利上昇によって金融機関の経営が苦しくなるルートは、大きく3つあります。
まず一つ目は、
債券の含み損が増えること
です。
次に、含み損のある債券を売却すると、
売却損が発生し、利益が減る
ことがあります。
さらに、金利リスクを減らすために社債やデリバティブなど別の商品を増やすと、
別の信用リスクや取引相手リスクが増える
可能性があります。
つまり、
「含み損を減らせばすべて解決」
という単純な話ではありません。
5.そこで使われるのが「ヘッジ」
ヘッジとは、
あるところで損が出たとき、別の取引で利益が出るようにして損失を小さくする方法
です。
例えば、
債券価格が下がる
↓
国債先物の売りポジションでは利益が出る
という仕組みを作っておけば、
債券本体の損失の一部をカバーできます。
金融機関では、主に次のような方法が使われます。
| 方法 | 簡単にいうと | 主な目的 |
|---|---|---|
| 金利スワップ | 固定金利と変動金利を交換する | 長期的な金利リスクを減らす |
| 国債先物 | 将来の国債価格を使ってヘッジする | 短期的・機動的に守る |
| ヘッジ会計 | ヘッジ取引の会計上のズレを小さくする | 決算のブレを抑える |
| 資産入替 | 長期固定債を短期・変動型へ変える | ポートフォリオ自体を強くする |
6.金利スワップで金利リスクを小さくする
代表的な方法の一つが、
金利スワップ
です。
例えば金融機関が、長期固定金利の債券をたくさん持っているとします。
固定金利の債券は、金利が上がると価格が下がりやすいという弱点があります。
そこで、
固定金利を支払い、変動金利を受け取る
金利スワップを使います。
すると、金利が上がったときに受け取る変動金利も上がりやすくなり、固定金利債券の弱点をやわらげることができます。
簡単にいえば、
長い固定金利のリスクを、少し短くする
イメージです。
7.国債先物で短期的に守る方法もある
国債先物もよく使われます。
例えば、
「今後数か月、長期金利が急に上がるかもしれない」
と考えた場合、
国債先物を売っておく方法があります。
実際に金利が上がると、国債価格は下がりやすくなります。
すると、
保有国債では損失
国債先物の売りでは利益
という形になり、損失を一部カバーできます。
金利スワップよりも、
短期間で機動的にリスクを下げやすい
という特徴があります。
8.ただし、完全に損失を消せるわけではない
ここは重要です。
例えば、
自分が持っているのは30年国債
一方、ヘッジに使っているのは10年国債先物
だったとします。
30年金利と10年金利が同じように動けば問題ありません。
しかし、
30年金利だけ大きく上昇
10年金利はあまり動かない
となれば、思ったほどヘッジ効果が出ません。
このようなズレを、
ベーシスリスク
といいます。
簡単にいうと、
「守ろうとしている債券と、ヘッジ商品が完全には同じ動きをしないリスク」
です。
9.ヘッジ会計も重要
ヘッジ取引をしたとしても、会計上の扱いが悪ければ、決算の数字が大きく動くことがあります。
例えば、
債券では評価損
金利スワップでは評価益
が出ていたとしても、
会計上の計上時期がずれると、
「今期だけ大きな損失」
のように見えることがあります。
そこで使われるのが、
ヘッジ会計
です。
ヘッジ会計は、
ヘッジ対象とヘッジ取引の損益を、できるだけ同じタイミングで表すための仕組み
です。
これによって、経済的にはリスクを減らしているのに、会計上だけ大きく利益や損失がぶれるという問題を小さくできます。
10.長期的には「債券そのもの」を入れ替える
デリバティブで守るだけでなく、
保有している債券の構成そのものを変える
方法も重要です。
例えば、
30年の低利回り国債を減らす
その代わりに、
5年債
変動利付債
貸出金
などへ資金を移す方法があります。
こうすると、
金利が上がったときの価格下落リスクを小さくしながら、
将来的に高い金利を受け取れる資産を増やすことができます。
つまり、
ヘッジ商品で一時的に守るだけでなく、体質そのものを金利上昇に強くする
という考え方です。
11.含み損のある債券を売る問題
ただし、資産入替には大きな問題があります。
低金利時代に買った長期国債などは、すでに大きな含み損を抱えている場合があります。
例えば、
100億円で買った債券が
現在90億円
だとします。
この債券を売れば、
10億円の売却損
が発生します。
すると、その年の利益が大きく減る可能性があります。
そのため金融機関は、
「将来のリスクを減らすために今損を出すか」
という難しい判断を迫られます。
12.ヘッジにもコストがかかる
もう一つ忘れてはいけないのが、
ヘッジは無料ではない
ということです。
例えば金利スワップや先物を使うと、
取引コスト
担保管理
証拠金
システム管理
などの負担が発生することがあります。
さらに、金利が予想どおり上がらなければ、
「ヘッジをしなければ得られたはずの利益」
を失う場合もあります。
つまり、
ヘッジを強くしすぎれば安全になりますが、
その分、収益が下がる可能性
があります。
13.デリバティブを使えば自己資本比率が必ず改善するわけではない
ここも大切です。
例えば金利スワップを使えば、金利リスクを減らせる可能性があります。
しかし、デリバティブ取引には、
取引相手が支払えなくなるリスク
があります。
これを、
カウンターパーティ・リスク
といいます。
その結果、規制上のリスク量が増え、自己資本比率の分母が大きくなる場合があります。
つまり、
金利リスクを減らしたら、別のリスクが増えた
ということもあり得ます。
そのため、金融機関では全体を見る必要があります。
14.短期対策と長期対策を分けて考える
実務では、
短期的な対策
と
中長期的な対策
を分けて考えると分かりやすくなります。
短期的には、
金利スワップ
国債先物
ヘッジ会計
などを使い、
急激な金利上昇による損失を抑えます。
一方、中長期的には、
低利回りの長期債を減らす
短期債や変動金利資産を増やす
貸出を増やす
といった方法で、
ポートフォリオ自体を金利上昇に強い形に変えていきます。
まとめ|自己資本を守るには「守る」と「入れ替える」の両方が必要
金利が上がると、銀行や信用金庫が持っている債券価格は下がりやすくなります。
含み損が増えれば、純資産や自己資本に影響する可能性があります。
そのため金融機関では、
金利スワップ
国債先物
などを使って金利リスクを減らします。
さらに、
ヘッジ会計
を使って、会計上の利益や損失が必要以上に大きくぶれないようにすることも重要です。
ただし、これらはあくまで「守るための対策」です。
長期的には、
低利回りの長期債を少しずつ整理し、
短期債
変動利付債
貸出金
などへ資金を移すことで、
金利上昇に強い資産構成へ作り替える
必要があります。
つまり、これからの金融機関に必要なのは、
「今の含み損をどう抑えるか」
だけではありません。
「自己資本を守りながら、将来どうやって利益を稼げる体質に変えるか」
まで考えることが重要です。
金利のある時代のALMでは、
短期的にはヘッジで守り、中長期的には資産入替で体質を改善する
という二つの考え方を組み合わせることが、重要なポイントになります。
なお、元原稿の「その他有価証券評価差額金のマイナス=そのまま規制上自己資本が同額減る」という理解は、会計上の純資産とバーゼル規制上の自己資本の扱いが必ずしも完全一致するわけではないため、一般向け記事では少し表現を弱めています。ここは金融機関の記事として公開する場合、かなり重要なポイントです。

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