金利が上がると銀行の債券はどうなる?「含み損」とALMをわかりやすく解説

日本では長い間、非常に低い金利が続いてきました。

銀行や信用金庫などの金融機関は、お客さまから預かった預金を貸出だけでなく、国債や外国債券などでも運用しています。

ところが、低金利だった時代に買った債券の中には、現在、大きな「含み損」を抱えているものがあります。

なぜ金利が上がると債券に含み損が発生するのでしょうか。

そして、金融機関はその債券を「持ち続ける」「売る」「新しい債券に買い替える」のどれを選べばよいのでしょうか。

この記事では、金融機関が抱える有価証券の含み損と「ALM(資産・負債総合管理)」について、中学生でもイメージできるように解説します。

目次

1.なぜ金利が上がると債券に「含み損」が出るの?

まず知っておきたいのが、

「金利が上がると、すでに発行されている債券の価格は下がりやすい」

という基本的な仕組みです。

例えば、昔購入した国債の利回りが年0.5%だったとします。

その後、金利が上昇して、新しく発行される国債の利回りが年2%になったとしましょう。

すると投資家から見れば、

「年0.5%の古い国債より、年2%の新しい国債を買いたい」

となります。

そのため、年0.5%の古い国債を途中で売ろうとすると、価格を下げなければ買ってもらいにくくなります。

これが、金利上昇によって債券価格が下がる基本的な理由です。

長い期間の債券ほど影響が大きい

特に影響を受けやすいのが、満期までの期間が長い「超長期国債」です。

例えば、

  • 2年後に満期になる債券
  • 10年後に満期になる債券
  • 30年後に満期になる債券

では、一般的に30年債の方が金利変動の影響を大きく受けます。

この「金利が動いたときに債券価格がどのくらい動きやすいか」を考えるときに使われるのがデュレーションという考え方です。

難しく考える必要はありません。

「デュレーションが長い債券ほど、金利上昇時の値下がりが大きくなりやすい」

と覚えておけば十分です。

2.外国債券にも別の問題がある

金融機関の中には、日本国債だけでなく米国債などの外国債券で運用しているところもあります。

外国債券には「為替」という別の問題があります。

例えば米国債を購入すると、ドルと円の為替レートが変動します。

そこで金融機関は、為替変動による損失を抑えるため「為替ヘッジ」を行うことがあります。

簡単にいえば、

「円高になっても大きな損失が出ないように保険をかけておく」

ような仕組みです。

ところが、この為替ヘッジにはコストがかかります。

海外の短期金利が高くなると、ヘッジコストが大きくなり、外国債券から受け取る利息以上のコストが発生することもあります。

例えば、

外国債券から受け取る利息が「3%」

でも、

為替ヘッジなどのコストが「4%」

なら、

単純化すると毎年「マイナス1%」です。

債券を持っているだけで収益を圧迫する状態になってしまいます。

3.含み損を抱えた債券をどうする?

ここで金融機関にとって非常に難しい問題が出てきます。

例えば、

100億円で購入した債券の現在の価値が90億円になった

としましょう。

10億円の含み損です。

金融機関には、大きく分けて次のような選択肢があります。

対応簡単にいうとメリットデメリット
持ち続けるすぐには売らない売却損を出さずに済む低い利回りの資産を長期間抱える可能性
売却する損失を確定する金利リスクを減らせるその年度の利益が減る
買い替える古い債券を売り、新しい債券を買う将来の利息収入を増やせる最初に売却損が発生する
ヘッジを見直す外債の為替対策を変更するヘッジコストを減らせる可能性為替リスクが増える場合がある

重要なのは、

「含み損があるから絶対に売ってはいけない」

と考えないことです。

逆に、

「含み損があるから全部売ればいい」

という話でもありません。

将来得られる利息、売却した場合の損失、自己資本、金利リスク、資金繰りなどを総合的に考える必要があります。

そこで重要になるのが「ALM」です。

4.ALMとは何?

ALMとは、

Asset Liability Management(資産・負債総合管理)

の略です。

難しい言葉ですが、考え方はそれほど難しくありません。

銀行や信用金庫では、お客さまから預かった「預金」を使って、

  • 企業や個人への貸出
  • 国債などへの投資
  • 外国債券などへの投資

を行っています。

つまり、

預金などで集めたお金と、そのお金をどのように運用するかを一緒に考えること

がALMの基本です。

例えば、

「預金にはすぐ金利を払わなければならないのに、30年国債を大量に持っている」

という状態では、金利上昇時に問題が発生する可能性があります。

預金金利は上昇する一方、昔買った国債から受け取れる利息は変わらないからです。

5.金融機関が抱える4つの問題

① 長期債券を持ちすぎている

低金利時代には、少しでも高い利回りを確保するため、期間の長い国債などを購入する金融機関もありました。

しかし金利が上昇すると、長期債券ほど価格が大きく下がりやすくなります。

その結果、大きな含み損を抱える可能性があります。

② 預金金利などのコストが上がる

金利が上がると、金融機関が預金者に支払う金利も上昇していきます。

ところが、昔買った低利回り債券から得られる利息は基本的に変わりません。

例えば、

「昔買った債券から0.5%しかもらえない」

のに、

「預金などの資金調達に1%かかる」

となれば、金融機関の収益は苦しくなります。

③ 含み損によって経営の余裕が小さくなる

保有している有価証券の種類や会計上の扱いによっては、債券価格の下落が純資産などに影響することがあります。

含み損が大きくなると、金融機関が新しいリスクを取る余力が小さくなる可能性があります。

つまり、

「含み損が大きい→経営の余裕が小さくなる→新しい投資をしにくくなる」

という悪循環が起こる可能性があるのです。

④ 「損を出したくない」が新しい問題を生む

金融機関の担当者として心理的に難しいのが、

「売った瞬間に損失が確定する」

という問題です。

例えば10億円の含み損がある債券を売却すれば、その損失が決算に影響します。

そのため、

「満期まで持っていればいい」

と考えたくなるかもしれません。

しかし、現在は昔より高い利回りで債券を購入できる可能性があります。

低利回り債券を長期間持ち続けることで、より高い利回りで運用できるチャンスを失っている可能性もあるのです。

6.「10億円損する」だけではなく、その後を見る

例えば、

現在100億円の低利回り債券を持っていて、10億円の含み損があるとします。

これを90億円で売却すれば、

10億円の売却損

が発生します。

これだけを見ると「売らない方がいい」と思うでしょう。

しかし、その90億円をより高い利回りの債券などへ再投資できれば、その後の利息収入が増える可能性があります。

つまり金融機関が考えなければならないのは、

「今年いくら損するか」だけではありません。

「売却した場合、5年後・10年後までにどのくらい収益を取り戻せるのか」

まで考える必要があります。

これがポートフォリオの「入れ替え」を考える重要な理由です。

7.これからの金融機関に必要な3つの対策

① 金利がさらに上がった場合を考える

「これ以上金利は上がらないだろう」と決めつけるのは危険です。

例えば、

  • 金利が0.5%上昇した場合
  • 金利が1%上昇した場合
  • 円高が急速に進んだ場合
  • 預金が大量に流出した場合

など、複数のケースを考えておく必要があります。

これが「シナリオ分析」や「ストレステスト」です。

② 目先の利益と将来のリスクを両方見る

ALMでは「EaR」と「EVE」という指標が使われます。

難しく見えますが、

EaR=金利が動いたとき、今後の利益がどのくらい変わるのか

EVE=金利が動いたとき、銀行全体の資産価値がどのくらい変わるのか

と考えると分かりやすいでしょう。

目先の利益だけでなく、将来的な資産価値への影響も確認することが重要です。

③ 少しずつ高利回り資産へ入れ替える

巨額の含み損を一度に処理すると、その年度の決算に大きな影響が出る可能性があります。

そこで、

「今年はいくらまで売却損を出せるのか」

を決めたうえで、数年かけてポートフォリオを入れ替える方法も考えられます。

低利回りの債券を少しずつ整理し、

  • 現在の金利水準に合った債券
  • 変動金利型の商品
  • 採算性を確保できる貸出

などへ資金を振り向け、将来の利息収入を増やしていく考え方です。

まとめ|「含み損をどうするか」より「将来どう稼ぐか」が重要

金融機関が抱えている債券の含み損問題を考えると、

「売ったら損だから、そのまま持っておこう」

という判断になりがちです。

しかし、それだけでは十分ではありません。

重要なのは、

①その債券を持ち続けた場合

と、

②売却して現在の高い金利で運用し直した場合

を比較することです。

今年の決算だけを見るのではなく、3年後、5年後、10年後の収益まで考える必要があります。

そのために重要なのがALMです。

預金金利、貸出金利、有価証券の利回り、金利リスク、為替リスク、流動性、自己資本などを一体として考え、

「どのくらいのリスクを取り、どのくらいの利益を確保するのか」

を決めていきます。

超低金利の時代から「金利のある世界」へ変化した現在、金融機関に求められているのは、単純に含み損を処理することではありません。

低利回り時代に作られた資産構成を見直し、将来安定して利益を生み出せる形へ作り直していくこと。

これこそが、これからの銀行・信用金庫にとって重要なALM戦略といえるでしょう。

それでは、ありがとうございました!

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この記事を書いた人

金融・不動産・年金・リスク管理分野を専門とし、FP技能士1級、宅地建物取引士、管理業務主任者、貸金業務取扱主任者など多数の国家資格・金融資格を保有。

銀行業務検定では財務・法務・税務・年金・融資管理・金融リスクマネジメント等に合格し、近年はDX、生成AI、サイバーセキュリティ、サステナビリティ領域にも知見を広げている。

「難しい制度を、誰でも理解できる言葉で伝える」をテーマに、資産防衛・老後対策・金融リテラシー向上に関する情報発信を行っている。

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