阪神タイガースを題材にした「トラ俳句」で知られ、「虎酔(こすい)」の俳号で親しまれた俳人・木割大雄(きわり・だいゆう)さんが、2026年8月30日に87歳で亡くなりました。
報道によると、死因は誤嚥(ごえん)性肺炎。2026年4月から体調を崩して入院生活を送っており、阪神タイガースに優勝へのマジックナンバーが初点灯した8月29日の翌日に息を引き取ったとされています。(ライブドアニュース)
木割大雄さんの人生を振り返ると、俳人だけでは説明できないほど多彩です。
商社勤務を経て書店を経営し、俳句を詠み、文化イベントを企画し、さらには小中学校で子どもたちに俳句を教えるなど、長年にわたって社会とのつながりを持ち続けてきました。
87歳まで自分の好きなことや経験を社会に還元し続けた木割さんの人生は、これから定年を迎える世代にとっても興味深いものがあります。
今回は木割大雄さんの経歴を振り返るとともに、ファイナンシャルプランナーの視点から「老後のお金」と「生きがい」について考えてみます。
木割大雄さんとは?「虎酔」として阪神俳句を詠み続けた俳人

木割大雄さんは1938年11月、兵庫県西宮市生まれ。1958年に尼崎市へ移りました。
若い頃に肺結核を患い、療養所で俳句と出会ったことが、その後の人生を大きく変えるきっかけになったとされています。
前衛俳句の第一人者として知られる赤尾兜子さんに師事し、その後、勤務していた商社を退職。書店経営をしながら俳句の世界で活動するようになりました。(ライブドアニュース)
「虎酔」の俳号で阪神タイガースを約2000句詠む
木割大雄さんを有名にしたのが、阪神タイガースを題材とした「トラ俳句」です。
「虎酔」という俳号で、1984年から1996年までの13年間、スポニチ大阪本社発行版でタイガースを題材にした俳句を連載しました。
驚くべきことに、シーズン中だけではありません。
オフシーズンやキャンプ中にも詠み続け、その数は約2000句に及んだと報じられています。
さらに元阪神タイガースの江夏豊さんに俳句を勧め、俳句の師匠でもあったといいます。著書には『虎酔俳句集』『江夏豊の俳句』などがあります。(ライブドアニュース)
「阪神が好き」という気持ちを趣味だけで終わらせず、自分の専門分野である俳句と組み合わせ、独自の活動へ発展させたところが木割さんの大きな特徴でしょう。
「下町のプロデューサー」と呼ばれた木割大雄さんの生涯現役人生
木割大雄さんの活動は俳句だけではありませんでした。
1989年から8年間、キリンビール尼崎工場で「麒麟亭」というイベントを開催。落語や文楽、クラシック、人形劇、上方講談など、さまざまなジャンルの出演者を招きました。
阪神地域や神戸を中心に、落語会、コンサート、舞踏会、花展なども企画し、「下町のプロデューサー」として文化活動に携わっています。(ライブドアニュース)
60代以降も子どもたちに俳句を教える
さらに注目したいのが、2006年から兵庫県伊丹市の教育特区「ことば科」で特別講師を務めたことです。
1938年生まれですから、この時点で木割さんは60代後半です。
一般的には定年退職を意識する年代ですが、木割さんはそれまで培ってきた俳句や言葉に関する経験を、次の世代へ伝える活動を始めました。
小中学校の俳句授業を通して「ことば・いのち」を伝えていたと報じられています。(ライブドアニュース)
これは、これからの高齢社会を考える上でも象徴的な生き方といえるでしょう。
内閣府の「令和7年版高齢社会白書」によると、65歳以上で収入を伴う仕事をしている人は35.6%。また、60歳以上で現在仕事をしている人に限ると、「70歳くらいまで、またはそれ以上働きたい」と考える人は8割を超えています。仕事を選ぶ理由についても、「自分の経験やスキルが生かせる」「仕事にやりがいがある」といった項目が重視されています。(内閣府ホームページ)
木割さんの生き方は、まさに「定年後は仕事を完全にやめる」という従来型の老後とは異なる人生だったと考えられます。
FPが考える「生涯現役」と老後のお金
ここからは木割大雄さん個人の資産状況とは切り離して、ファイナンシャルプランナーの視点から考えてみます。
大切なのは、老後を「貯めたお金を取り崩す期間」とだけ考えないことです。
老後資金は「いくら貯めるか」だけではない
総務省の2025年家計調査によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯では、1カ月の実収入が平均25万4,395円なのに対し、消費支出は26万3,979円でした。
税金や社会保険料などの非消費支出まで含めると、平均で毎月4万2,434円の差額が生じています。
一方、65歳以上の単身無職世帯についても、実収入13万1,456円に対して消費支出は14万8,445円となっています。(総務省統計局)
もちろん、これはあくまで平均です。
持ち家か賃貸か、年金額はいくらか、医療・介護費はいくらかなどによって必要な老後資金は大きく異なります。
しかし、年金だけに依存するのではなく、貯蓄、資産運用、可能な範囲での仕事など、複数の選択肢を持っておくことは重要です。
「好きなことを続ける」ことも老後設計になる
木割さんの人生から特に考えさせられるのが、「好きなことを長く続ける」という点です。
俳句、阪神タイガース、文化イベント、教育、沖縄文化。
一見すると別々に見える活動ですが、自分が長年培った経験や人とのつながりを次の仕事・活動へつなげています。
老後の仕事には、必ずしも現役時代と同じ収入を求める必要はありません。
月数万円の収入だったとしても家計の取り崩しを抑える効果がありますし、何より社会との接点を持ち続けることができます。
内閣府も、高齢者の就業について、収入だけでなく「健康」「経験や能力を生かすこと」「やりがい」など、多様な理由があることを示しています。(内閣府ホームページ)
つまり老後設計では、
「何歳で仕事を辞めるか」
だけではなく、
「何歳まで、どんな形で社会と関わりたいか」
を考えることも大切なのです。
木割大雄さんの人生から考えたい「老後の3つの資産」
FPというと預貯金や株式、年金といった金融資産ばかりに目が向きがちです。
しかし、長い老後を考えるなら「お金」だけでは十分ではありません。
第一はもちろん金融資産です。
年金、預貯金、NISAなどによる資産形成を組み合わせ、自分が望む生活を続けられる家計を準備します。
第二は経験やスキルという「人的資産」です。
会社を定年退職したとしても、それまで30年、40年と培ってきた仕事の知識や趣味、資格、経験が突然ゼロになるわけではありません。
木割さんの場合、それが俳句やイベント企画、教育活動へつながっていきました。
そして第三が「人とのつながり」という資産です。
仕事を辞めると職場での人間関係が一気に減る人も少なくありません。
地域活動、趣味、ボランティア、副業などを通じて社会との接点を残しておくことは、金額では測れない老後資産になる可能性があります。
定年を「人生の引退」にしない老後設計
木割大雄さんは、商社勤務だけで人生を終えませんでした。
書店経営者となり、俳人となり、「虎酔」として阪神タイガースを詠み、文化イベントを企画し、さらに子どもたちに言葉の大切さを伝えました。
会社員時代にどれだけ収入があったのか、老後にどの程度の資産を保有していたのかについては、公表された情報からは確認できません。
そのため「木割さんは経済的に豊かな老後だった」などと断定することはできません。
しかし、その生涯から学べることはあります。
老後に必要なのは「十分なお金」だけではなく、毎朝起きたときに「今日はこれをやろう」と思えるものではないでしょうか。
人生100年時代では、60歳や65歳から20年、30年という時間が残る可能性があります。
その期間をすべて「引退後」と考えるのか、新しい人生のステージと考えるのかによって、老後の過ごし方は大きく変わってきます。
まとめ
「虎酔」の俳号で阪神タイガースを詠み続けた木割大雄さん。
約2000句のトラ俳句を残しただけでなく、書店経営、文化イベント、小中学校での俳句指導など、人生を通してさまざまな活動を続けました。(ライブドアニュース)
木割さんの人生から私たちが考えたいのは、老後資金を準備することと同時に、「老後に何をするのか」を準備しておくことです。
年金はいくら受け取れるのか。
老後の生活費はいくら必要なのか。
預貯金はいくら必要なのか。
こうした数字を確認することはFPとして非常に重要です。
しかし、それと同じくらい、「好きなことは何か」「自分の経験を誰かのために生かせないか」「定年後も続けたいことは何か」を考えておくことも大切でしょう。
木割大雄さんが「虎酔」として長年続けた俳句は、まさに好きなことが社会とのつながりになった一例です。
87歳まで続いたその歩みは、「生涯現役」とは単に長く働くことではなく、自分なりの役割や生きがいを持ち続けることなのだと教えてくれているように感じます。
木割大雄さんのご冥福を心よりお祈りいたします。
それでは、ありがとうございました!

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