明治6年(1873年)創業という150年以上の歴史を持つ、日本を代表する大手ゼネコン「大成建設」。
大成建設といえば、超高層ビルや大型再開発、トンネル、橋梁など数多くの大型プロジェクトを手掛けてきた企業ですが、同社の経営を理解するうえで重要なのが、
「人がいきいきとする環境を創造する」
というグループ理念です。
代表取締役社長を務める相川善郎氏の経営を見ていくと、この理念は単なる企業スローガンではありません。
人材への投資、建設現場の働き方改革、DXによる生産性向上、脱炭素技術への投資など、現在の経営戦略につながっています。
一方で、大成建設は近年、低採算の大型工事や建設資材価格の高騰などによって収益面で苦戦した時期もありました。
そこで相川社長のもとで打ち出されたのが「利益重視主義」です。
今回は、大成建設のグループ理念と相川善郎社長の経営戦略を取り上げ、150年以上続く企業がどのように建設業界の構造変化に対応し、持続的成長を目指しているのかを解説します。
大成建設とは?1873年創業の大手ゼネコン

大成建設の歴史は1873年、創業者・大倉喜八郎が設立した「大倉組商会」にさかのぼります。
その後、日本の近代化とともに事業を拡大し、鹿鳴館、地下鉄、空港、競技場、超高層ビルなど、日本を代表する建築・土木事業に携わってきました。
現在ではスーパーゼネコンの一角として、建築・土木だけでなく、都市開発、エンジニアリング、環境・エネルギー関連事業など幅広い分野を展開しています。
150年以上企業が存続してきた背景には、高い施工技術だけでなく、時代に合わせて会社そのものを変化させてきた歴史があります。
その経営思想を象徴するものが、大成建設グループの理念です。
大成建設のグループ理念「人がいきいきとする環境を創造する」とは?
大成建設が掲げているグループ理念は、
「人がいきいきとする環境を創造する」
というものです。
この言葉だけを見ると、建物や都市空間を利用する「人」のために快適な環境をつくるという意味に感じられるかもしれません。
しかし、大成建設が過去に公表した統合レポートを見ると、さらに広い意味を持っています。
グループ理念には、人と自然が調和する空間づくりを通じ、次世代へ受け継がれる社会づくりに取り組むという考え方が込められています。
さらに重要なのが、そこで働く人です。
建設会社がどれほど優れた設計技術や建設機械を持っていても、最終的に建物やインフラを完成させるのは人です。
社員だけではありません。
現場で働く技能者や協力会社など、多くの人たちによって建設現場は成り立っています。
つまり「人がいきいきとする環境」とは、
建物を利用する人+建設する人+地域社会
まで含んだ理念と考えることができます。
相川善郎社長はどんな経営を目指している?
相川善郎社長の経営を理解するうえで重要なのが、社会的価値だけではなく「利益を確保する」という視点です。
大成建設が2024年に公表した「TAISEI VISION 2030達成計画」と「中期経営計画(2024-2026)」では、前中期経営計画について、複数の低採算大型工事や建設資材価格高騰に対する価格転嫁の遅れなどにより、最終年度目標が未達となったことを説明しています。
その反省を踏まえて打ち出されているのが、
「利益重視主義」
です。
売上高や受注高をただ増やせばいいのではなく、採算性を見極め、適正な利益を確保できる事業を積み上げる。
建設資材や人件費が上昇する現在の建設業界では、非常に重要な考え方です。
相川体制では「人を大切にする経営」と「利益を生み出す経営」を両立させることが大きなテーマになっていると考えられます。
大成建設の経営戦略①「人」への投資で建設業界の人手不足に対応
建設業界が抱える最大級の問題が人手不足です。
高齢化によって熟練技能者が減少する一方、若い世代の人材確保も簡単ではありません。
さらに2024年4月から建設業にも時間外労働の上限規制が適用され、従来と同じ働き方を続けることは難しくなりました。
そこで重要になるのが、
少ない人数でも高い生産性を実現できる現場づくり
です。
働き方を改善することは、単なる福利厚生ではありません。
長時間労働を減らす
↓
人材が定着する
↓
熟練した技術やノウハウが蓄積される
↓
施工品質が安定する
↓
手戻りや事故などのコストが減少する
↓
利益率や競争力が高まる
という好循環を生み出す可能性があります。
「人がいきいきとする環境を創造する」という理念は、人材不足時代の経営戦略としても重要性を増しているのです。
大成建設の経営戦略②DX・AIで「人にしかできない仕事」へ集中
もう一つの重要な柱がDXです。
建設現場では、設計、施工管理、測量、検査、設備管理など膨大な業務が発生します。
これらをすべて人間が行っていては、人手不足が深刻になるほど施工能力に限界が生じます。
そこで大成建設では、BIMなどのデジタル技術に加え、AIやロボティクスを活用した生産性向上を進めています。
例えば、同社はコンクリートのひび割れを画像から解析する「t.WAVE」にAIによる自動検出機能を導入し、点検時間の短縮やコスト削減につなげています。
こうしたDXの本当の目的は、単純に人員を減らすことではないでしょう。
機械やAIに任せられる仕事を自動化し、人間には判断、創造、コミュニケーションといった「人にしかできない仕事」に集中してもらう。
これも「人がいきいきとする環境」の実現につながります。
大成建設の経営戦略③脱炭素を新しい成長市場に変える
環境分野も、大成建設の将来を考えるうえで外せません。
建設業は大量の資材やエネルギーを使用するため、脱炭素社会への移行による影響を大きく受ける産業です。
逆に考えれば、環境技術を持つ建設会社にとっては巨大なビジネスチャンスでもあります。
大成建設では環境配慮型コンクリートなどの技術開発を進めており、セメント使用量を抑え、CO2排出量を大幅に削減する技術の実用化にも取り組んでいます。
さらにZEBや再生可能エネルギー、省エネルギー建築などへの需要が拡大すれば、建設会社は「建物を造る会社」から、
企業や自治体の脱炭素を支援する会社
へと役割を広げることができます。
大成建設のグループ理念にある「環境を創造する」という考え方とも非常に親和性の高い分野です。
「理念」と「利益」は対立するものではない
企業理念について、
「理念はきれいごとで、企業経営で重要なのは利益ではないか」
と考える人もいるでしょう。
しかし大成建設の事例から見えてくるのは、理念と利益は必ずしも対立するものではないということです。
例えば、
人材投資 → 定着率・技術力向上 → 生産性向上
DX投資 → 省人化・効率化 → 原価低減
安全対策 → 事故減少 → 工程安定・損失抑制
環境技術 → 高付加価値化 → 新規受注
というように、理念に沿った取り組みが結果的に企業の収益力につながる可能性があります。
特に建設業は「人・技術・信用」の積み重ねが競争力になる産業です。
短期的な利益だけを追求して人材育成や技術開発を削れば、数年後の施工能力そのものが低下しかねません。
その意味でも、大成建設が「人」を経営の中心に置いていることには合理性があります。
大成建設の今後の業績を左右する3つのポイント
ただし、理念やDXに取り組めば必ず業績が伸びるわけではありません。
投資家の視点から大成建設を見る場合、今後は特に次の3点が重要でしょう。
① 利益重視主義が本当に定着するか
過去の低採算大型工事の反省を踏まえ、採算性を重視した受注管理が継続できるかがポイントです。
売上高よりも、営業利益率や工事採算の改善に注目したいところです。
② 人手不足をDXでどこまで補えるか
建設需要があっても、施工する人がいなければ売上にはなりません。
BIM、AI、ロボット、自動施工などによって「1人当たり生産性」をどこまで引き上げられるかが、中長期的な競争力を左右します。
③ 脱炭素技術を収益化できるか
環境技術は研究開発だけでは利益になりません。
環境配慮型コンクリートやZEBなどの技術を実際の大型案件へ展開し、受注や利益につなげられるかが重要です。
大成建設の最大の強みは「人×技術×信用」
大成建設の競争力を整理すると、
人 × 技術 × 信用
という3つの要素に集約できます。
150年以上にわたって蓄積してきた施工実績と技術力は、簡単に他社がまねできるものではありません。
しかし、それらを次世代へ受け継ぐ「人」がいなければ競争力は維持できません。
だからこそ「人がいきいきとする環境を創造する」という理念が重要になります。
人を育てる。
デジタル技術によって人を支える。
環境技術によって新しい市場をつくる。
そして適正な利益を確保し、次の人材・技術へ再投資する。
この循環を構築できるかどうかが、大成建設の今後の成長を左右すると考えられます。
まとめ|相川善郎社長の経営は「人を大切にして利益を生み出す」経営へ
今回は、大成建設の相川善郎社長の経営戦略と「人がいきいきとする環境を創造する」というグループ理念について解説しました。
1873年創業の大成建設が150年以上にわたり事業を続けてきた背景には、時代の変化に合わせながら技術と人材を進化させてきた歴史があります。
現在の建設業界では、人手不足、働き方改革、資材価格高騰、脱炭素、DXなど、過去とは異なる課題が一気に押し寄せています。
相川善郎社長の経営で注目したいのは、これらを個別の問題として処理するのではなく、
「人への投資」
「DXによる生産性向上」
「環境技術による高付加価値化」
「利益重視主義」
を組み合わせようとしている点です。
「人がいきいきとする環境を創造する」という理念は、単なる理想論ではありません。
働く人を大切にすることが施工品質を高め、DXが生産性を高め、環境技術が新しい受注を生み、それによって得られた利益を再び人材と技術へ投資する。
この好循環を実現できれば、グループ理念そのものが大成建設の競争力になります。
150年以上続いてきた「人と技術」を、デジタルと環境という新しい武器によって次の時代へつなげられるのか。
そこに、相川善郎社長率いる大成建設の今後の業績と企業価値を考えるうえでの最大のポイントがあるのではないでしょうか。
それでは、ありがとうございました!

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